の続き

第48報で、>やれる限りやってきましたが南極点に到達するのは極めて困難です。と言ったが、この先の14日間で何処まで進めるか? (冒険期間が60日として)

ここで、一つの疑問が湧く・・・それは、冒険期間(日数)の設定。
ALE社(南極冒険者のサポート会社)と、どんな契約をしたのか?
スタート地点に“降ろして”、何日後かに極点で“回収”、これが主な事柄なはず。
当初計画より日程が遅れるとしても、毎日交信してる関係、迎えの飛行日を変更したら?
経費増には為らないはず・・・(多少極点行きよりは、飛行距離が長いとしても)
期間が伸びて、喰い物他が少なく可能性は有るが、本人が喰う量を調整して凌げば済む。
BCから本土への飛行日だとしても、次便とかに変更出来ないのか・・・

残り、極点まで548km。限られた日数で、何処まで近付けるか?
これから登るクイーンモード山脈は、110年前にアムンゼンが探し当てたルート。
アムンゼンは、山脈中の氷河に進路を求めて、3日掛けて56kmの氷河を登り切ったと言う。
氷河を抜けた地点は、南緯85.36°・標高3200m。アクセル・ハイバーグ氷河と命名。

彼は、橇を犬に曳かせて3日で抜けたが、人が100kg超えの橇を曳いて1日何km進めるか?
クレバス帯を迂回しながらの登りだ・・・



行動記録【第51報⇒第60報

黒字は、事務局に送った内容。赤字は、小生が強調した部分。青字は、小生の思い。**********************************************************************

2022年1月4日7:06(日本時間)/第51報

1/3 47日目 距離23km 高度126m
山脈へと近付き明らかな緩い登り下りを繰り返し、取り付きへ。ここまで723km。実に長く辛かった。艱難辛苦は前回の南極と比にならない程。ただ、また問題が。昨日ベースキャンプとの交信で山脈越えの事を話したが、オレのいる場所が遠隔の為、ベースキャンプの撤収の日程まで間に合うかどうか、という問題。山脈を越えないと飛行機が着陸可能な場所がない。オーナー達が相談して最終決断をするらしい。南極では飛べないときは1週間も待つ事も。「山脈越えだけはしたい」と電話で頼み込むが特殊な地である為、オレが決断できる訳ではない。上ずりそうな声を抑え冷静に話す。ピックアップの可能性もある。ここの取り付きなら着陸可能だからだ。最終決断は次の交信の時に下されるだろう。行けるのか、それとも。

前述の、疑問の一部が解消。
>ベースキャンプの撤収の日程まで間に合うかどうか、という問題。
ALE社(南極冒険者のサポート会社)の南極に在るBCは、ハイシーズンのみの営業らしい。
施設は兎も角、要員も飛行機も本土へ撤収するのか・・・
送迎用飛行機チャーター代が、6000万円と言うのも強気だ。

>山脈を越えないと飛行機が着陸可能な場所がない。
>ここの取り付きなら着陸可能だからだ。
飛行機が降りれる場所は、この2箇所より無いのだ・・・予想した通りだ・・・
明日の交信結果は如何に・・・
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南緯85°のライン(
空色)は越えた。これから、ア
クセル・ハイバーグ氷河に入る寸前。
何とか為らないものか・・・
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2022年1月5日10:15(日本時間)/第52報

1/4 48日目 距離20km 高度356m
眼前に広がる山脈。英語で言うMassiveがまさにピッタリ。明らかに標高が高くなるのを筋肉の疲労から感じる。山脈越えに挑戦できる。ただし要所でのタイムリミットがある。達せなかった場合は取り付きまで降りてくるのが条件。クレバスがあるので視界良好でないと行動不能。運にも左右される。飛行機を飛ばす会社の皆さまのご理解に感謝。シーズン終了間際で予期しにくい場所での行動は彼らにとってもリスクなのだから。挑戦できると聞いて、ガッツポーズ。背筋が凍り血が沸く。それがやりがいかも。冒険家ってのは因果な家業だ。

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>山脈越えに挑戦できる。ただし要所でのタイムリミットがある。達せなかった場合は取り付きまで降りてくるのが条件。
厳しい条件だが、昨日の位置から、20km進んで標高差で230mも稼いてる。
確か、
クセル・ハイバーグ氷河の入り口が、標高5百何十mだったと記憶してる。
明日には、入り口に着けるか・・・入り口から56km登れば、3200mの氷床台地に着ける。
氷河を、何日で抜けれるか? が、勝負だ。
血判状を記して挑んた君だ、極点が無理なら、せめて3200mの
氷床台地の上に立て!
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2022年1月6日6:12(日本時間)/第53報

1/5 49日目 距離12km 高度526m

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曇り気味のなか出発。緩やかに登る。雪が柔らかく軽くなったソリでも牽引にパワーがいる。12時間行動が通常だが8時間行動で曇りで雪面が見えなくなり行動終了。ヒドゥンクレバスも確実に見えるコンストラストでなければ、ここでは歩くべきじゃない。
アムンゼンも雪が柔く、クレバスの迂回が多いと言ってるが、見る限りそんな気配は・・・
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高度526m、170m登った。残り標高差2674m。
アムンゼンは、犬45頭で4台の橇を曳き、3日で登ったと言うが、人力で
何日で登れるか? 
人力車夫としての、本領発揮の時だ!!!
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2022年1月7日9:16(日本時間)/第54報

1/6 50日目 距離9km 高度759m

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寝てる間にガッツリ降雪。南緯85度を越えしこんなに降るとは。朝のテント撤収がひと仕事。お陰で軽くなったはずのソリが重い重い。スタート時並に重い。今日はドローンを飛ばして撮影。極めて好条件でないと飛ばせない。もう出発して50日間、実は遠征中は孤独を一切感じない。動物占いがヒツジなのに笑。この世界ではむしろ皆を身近に感じる。精神の世界に近い場所にいるから。都会の方がずっと孤独なものだ。
ドローン撮影? そんな余裕が有るのか、9kmより歩けて無い。今は、何が最優先だ? 
降雪で、クレバスが隠れてるから、注意だぞ!!!

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高度759m、233mも登った!!! 氷床台地まで、残り2441mだ。曳け・曳け・曳け!!!
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秋田魁新報 1月7日掲載web記事より
部さんは昨年11月19日、日本人初の南極探検家・白瀬矗(のぶ)(にかほ市金浦出身)の最終到達地点である大和雪原(ゆきはら)を出発。今月17日までに約1300キロを歩いて南極点に到達する目標だった。
南極へのフライトが予定より遅れるなど、不運も重なって今月1日までに行程の半分過ぎまでしかたどり着けず、南極点到達は断念。眼前に迫った南極断山脈越えに挑むとしていた。
期限である17日には、南極専門の航空会社が南極のベースキャンプを撤収し、阿部さんを乗せる帰りの航空機が飛ぶ。この日までに南極に到達できない場合は、阿部さんがいる地点まで航空機が迎えに来ることになっていた。
しかし、山脈を登り始めると、山を越えるまで航空機が着陸できる場所がない。このため航空会社は、山越えの要所に時間制限を設け、間に合わない場合はその時点で登り口まで戻らなければならないという条件付きで山脈越えの挑戦を許した。
記事を読んで、唖然!!! 
>月17日までに約1300キロを歩いて南極点に到達する目標だった。
これまで、何処にも、17日が期限との書き込みが無い。地元紙にだけ発表?
第48報で、やれる限りやってきましたが南極点に到達するのは極めて困難です。
と、初めて言う。白瀬ルートから、アムンゼンルートに変えた時から、
無理な事が判ってたのでは? 1日当たり平均22km進まないと駄目な事を・・・

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2022年1月8日8:23(日本時間)/第55報

1/7 51日目 距離7km 高度913m
雪と登りで一気にペースが落ちている。登りよりも雪の柔らかさに苦しめられる。9時間歩いてわずかこの距離。天気は悪くない。視界が悪いと歩けないのだから文句は言えない。前に前に、南に南に、進むのみ。

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9時間で、7kmより進めない。154m登って標高913m。残り2287m。
この先1日当たり200m登れても、残り10日で、3200mの氷床台地に到達は不可能。
何日の時点で引き返すのか? 
極点に達せず
瑣末な話だが、何としても
「単独で海側から、橇を曳いて南極横断山脈を越えたのは、俺が初だ」と、言いたいのなら、不要な荷を捨て、身軽にして進め!(知る限りでは、橇を曳いて、南極横断山脈を越えた者は既に居る。極点から単独で同ルートを越えたのは1人、同南極道路経由が2人。スコット基地から自転車・バイクで南極道路経由で極点到達者2人?)
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2022年1月9日6:53(日本時間)/第56報

1/7(1/8の間違い) 52日目 停滞日

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22日目以来の休息とした。起きると分厚い曇りが辺りを覆っていてテントの周辺だけ晴れ。この雲が太陽にかかるとこの地域は歩かない方が良い。そう決めたものの1時間事に外を見る。結局、ほぼ曇らず。歩けば良かったかな、との思いになるが選択しなかった未来など誰か分かるだろう。休む時は休むべきだ。夢ばかり追いかけてきたせいか、生きるのが下手だなぁ、とよく思うが、だからここまで来れたのかも、とも。
時間制限間近の、此処に来て停滞するとは・・・南極山脈の上の台地は遥か彼方だ!
これを越えて、“漢”に為りたかったのでは?  ヤル気が失せたか・・・
事故ル前に敗退宣言をして、救援して貰った方が、後が有るぞ。 

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2022年1月10日9:33(日本時間)/第57報

1/9 53日目 距離9km 高度1,027m

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ほぼ眠れなかった。昨夜、ベースキャンプとの交信で再び続行か撤退か、の話になり、これから天気が荒れるのでかクレバス帯を越えはのが極めて危険であり、また飛行機ピックアップの制限時間にも際どい。改めて最終決定の電話を別日にすると言うことだ。規模が大きい遠征は精神戦でもある。様々な事が起こる。それを受容するメンタルも必要。クレバスはもう目の前で大きく口を開けている。
休んた翌日でも、9kmより曳けない・・・到達高度(標高)1027m。
救援機が降りれる3200mの氷床台地まで、2000m以上の登りが有る。
1日登って100mより稼げない・・・これでは期限の17日までに、
クセル・ハイバーグ氷河を抜けるのは無理だ。回収時の天候不良を考えて、2.3日中に下りる決断をせよ。
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2022年1月11日7:56(日本時間)/第58報

1/10 54日目 停滞日 

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分厚い雲が空を覆い光の乱反射で地形が見えない。前と違いここではこの天気では危険過ぎて行動不能。ベースキャンプとも相談し、「現状では南極横断山脈は極めて難しい」との双方の判断。ピックアップのタイムリミットもあるが、これから天気が荒れ数日間の停滞を余儀なくされるだろう事も考慮して。これから天気が回復次第、プロペラ機が着率可能な平らな雪原がある場所まで約50km下山する。外は南緯85度を超えているというのに雪が降っている。前回も今回も天気と雪に悩まされる。ベースキャンプに戻るまで一週間近くかかるだろう。最後まで気は抜けない。土壇場では自分は極端にドライな感情になる。だから泣いたりはしない。が、応援して下さるあなたの気持ちにどれだけ応えられたか、それに胸が痛む。
一つの冒険が呆気なく終わった・・・心中幾許か・・・
南極横断山脈の中の、クイーンモード山脈に有る、クセル・ハイバーグ氷河の標高1027mが、今回の冒険の最終到達点。極点まで直線で約506kmの地点。
座標は、南緯85.442444° 西経165.840147°。
総踏破距離は、780.7km。
以上が結果だ・・・
救援機が降りる地点までの、50kmの下山中は気を抜く事なく、安全に・・・
アムンゼンは、この氷河の下りが、橇が先行し困難だったと述べている。

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秋田魁新報 1月3日掲載web記事より抜粋

今回の冒険では、南米チリから南極へのフライトが天候などの影響で予定より5日遅れたほか、出発前の調査でクレバスを迂回(うかい)するため行程が100キロ以上増えた。出発後も大和雪原(ゆきはら)周辺の雪が乾燥していてそりが滑らずペースが伸びなかった。こうした悪条件が大きく響いた。
と、書かれているが・・・
南極到着が5日遅い
⇒5日前に着いても、進めた距離は約110km。(1日22km換算)
100km以上迂回⇒約10日間の迂回が無かったとしても、進めた距離は約200~250km。
計約360kmを加えても、極点は約140km先。
1日22km換算で7日相当
要は、
冒険期間と1日当たりの歩行距離の設定に、問題(無理)が有ったのでは? 
いづれ本人から、説明が有ると思うが・・・

橇が滑らず⇒平底に近い橇は、雪面抵抗が多く、軟雪には弱い。
’18年日本人初の、南極点無補給単独到達者、荻田泰永氏が使った橇↓は、
8kg弱だったと言う。信じられない軽さだ・・・しかも、卵型に見える・・・
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今回使ったこの平橇↓は、何kgだったのか? 興味が沸く・・・
何かの記事で読んた記憶では、赤のカバー付きで12kgだったと・・・この差は?
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こんな橇↓だったなら、
雪面抵抗が少なく、曳き易いのではと思ったりも・・・
スキー板と架台の重さが加わるが、荷台の造りで、軽量化が図れるのでは?
若干重心が上に為るが、工夫次第で何とでも為るだろう・・・
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2022年1月13日10:53(日本時間)/第59報
以下事務局から)南極の現地時間で昨日(1月12日)発信されました阿部雅龍からのメッセージを受け取りました。天候悪化で2日間テント内で停滞をしていたようです。これからクレバスゾーンを抜け、4日ほどで現地サポートチームと決定したピックアップポイントに達する予定です。阿部雅龍の健康状態に問題はありません。
give upした地点での画像。
こんな処で、白瀬南極探検隊の旗など立てるなよ!  極点に立てる筈だったろうに・・・

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今回の最終到達点。
クセル・ハイバーグ氷河標高1027m。極点まで直線で約506kmの地点。
座標は、南緯85.442444° 西経165.840147°。総踏破距離は、780.7km。

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2022年1月16日19:00(日本時間)/第60報
(以下事務局から)現地サポートチームと合流後、南極点の基地に到着した阿部雅龍から衛星電話での定期連絡がありました。心身ともに健康であることを取り急ぎご報告させていただきます。今後、最短の好天日を待ち、チリへ渡航後、各国のルールに従った入国手順を経て、日本へ帰国いたします。
救援機で、極点基地に収容された様です。
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第60報で、行動記録を終わります。

に続く